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「地中図書館」の外観

 

我が国の中央集権体制が機能不全に陥りつつある今、「ローカル」から「グローバル」へといったベクトル、考え方は正しい。しかしながら、こと「広島」に関して云えば、広島市中央図書館の移転問題にせよ、旧・帝国陸軍被服支廠倉庫の保全問題然り、100億円規模の公共事業であるだけに留まらず広島市民の、否、日本国民の「平和」への取り組みを改めて問い直す極めて重要なプロジェクトであったにも関わらず、何ら革新的かつ現実的な発想に基づく再生プランを生み出すことが出来ず、よって「グローバル」どころか「ローカル」な、極めて矮小な地域問題として”埋没”させる結果となりました。

広島市の施策は、「国際平和文化都市」の理念に反することは云うまでもありません。しかしながら広島市民も文学的な抽象論に終始し、これら施設のリニューアルを契機に、広島市としての新たなアイデンティティを構築するといった意気込みは皆無であり、建設的な議論にまで高めることさえ出来ませんでした。残念ながら、戦後広島の”負の側面”「停滞」と「沈黙」をまざまざと見せつけられた想いです。

 

私はこのブログ連載 (⑨昨年4月14日付〜⑩同30日付) ならびに昨年4月に広島市青少年センターにおいて100名以上の皆様にお集まり頂いた講演でも、僭越ながら広島市中央図書館の再建に向けた独自案を披瀝させて頂きました。同案がベストであるとは端から考えてはいません。少なくとも広島市民がエールエールA館への移転以外にもオプションはある、と考えて頂くための”呼び水”になればとの想いから、建築・設計の素人でありながらも私案を提示させて頂きました。

同案の基本コンセプトは、1) 広島市中央公園内での移転・再建、2) 想像線に過ぎなかった“平和の軸線”の可視化、3) 斬新なコンセプト、4) 建設費用の大幅な削減、の4点に尽きます。なぜならば立地、理念、オリジナリティ、そして経済性をセットで組み込まなければ単なる理想論の域を出ず、検討に値しないからに他なりません。

 

「地中図書館」の内観

 

こうした中、建築デザインに関して云えば、1年前に私が考案した中央公園の地下スペースを活用するといったスタイルを踏襲する事例が生まれています。千葉県・木更津にあるサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」(クルックフィールズ)は、「育てる・作る・食べる・循環する」が感じられる場所を目指した宿泊施設付きの農場ですが (総合プロデュースは、音楽プロデューサーの小林武史氏)、このパーク内に”晴耕雨読”を志向する人々のために構想された「地中図書館」が今月16日にオープンする予定です (設計 中村拓志 [NAP 建築設計事務所])。

同館は、建設残土で埋め立てられたすり鉢状の谷に建てられ、梁や柱を排除した洞窟を思わせる”オーガニック”な空間となっています (外部から取り入れた空気を開閉式のトップライトから外へと送り出す自然重力換気のエコシステムを備えています)。最終的には約8,000冊となる蔵書の選書は選書家の川上洋平氏が手掛け、自然や農に関する書籍を軸に哲学や歴史、宗教、科学といった独自のセレクションとなります。

 

ザ・オーガニック・ホビット・ハウスの外観

 

また、こちらは『指輪物語』で知られる児童文学作家J.R.R. トールキンの作品『ホビットの冒険』(The Hobbit, or There and Back Again) に登場する小人ホビットの住居を模したメキシコ合衆国の首都メキシコシティにある個人邸、ザ・オーガニック・ホビット・ハウスです。有機的設計デザインで知られるメキシコ人建築家ハビエル・セノシアイン氏が1984年に手掛けたピーナッツ型の住居は 1,873平方フィートの広さがあり、曲面を活かした心地よい居住空間を生み出しています。

 

公立図書館は、書籍や文献資料を所蔵し、無償で貸し出すといった機能面だけが強調されますが、現代社会においては市民を引き寄せ良好なコミュニティを形成するための有機的なスペースであることも求められています。貧すれば鈍する。基本を蔑ろにすれば、どうしてもコンビニエンス・ストアの如き利便性や”目に見える”経済効率が優先されてしまいます。広島市、広島市民が新図書館を、世界がうらやむコミュニティ・センターとして生まれ変わらせたいのか、それとも凡百のお荷物公共施設で構わないと切り捨ててしまうのか。皆さんの「ローカリズム」に対する立ち位置が今、シビアに問われています。

 

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