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盛夏の広島に拡がる青空ほど、

哀しいものはない。

雲ひとつない抜けるような青空。

早朝から蝉の声が姦しい。

家々からは朝餉の穏やかな煙が宙を舞っている。

勤め人は国民服の襟を正し、勤労奉仕へと向かう。

女学生たちは、へちま襟のセーラー服に袖を通す。

いつもと変わらぬ喧噪。

80年前の今日、午前8時15分までは。

 

10年前の8月6日、広島に居た。

8年前も。以来、何十回も

此の地を訪れながらもこの日と

多くのご遺体が埋められた

本川の川沿いに

桜が咲き乱れる季節は

意識的に避けて来た。

 

式典が始まる何時間も前、

まだ夜が明け遣らぬうちに

慰霊碑に相対し、

震える手を合わせる

年老いた背なが

今も脳裏に焼きついている。

 

暁第6140部隊の見習士官として

罹災者救助と遺体処理にあたられた

故・武内五郎さんが語って下さった

「あの見事な桜はね、

無念の想いを抱いて亡くなられた方々の、

魂が咲かせとるんですよ」

という言葉が、今も胸を締め付ける。

遠方から黙祷し、祈りを捧げる。

今年も、来年も、この命が続く限り。

 

盛夏の広島に拡がる青空ほど、

哀しいものはない。

80年経とうが、800年を経ようが、

人類の宿痾が寛解するまで、

良心が邪悪を凌駕するまで。

 

合掌。