あの、青い空の下で
2025/08/06
盛夏の広島に拡がる青空ほど、
哀しいものはない。
雲ひとつない抜けるような青空。
早朝から蝉の声が姦しい。
家々からは朝餉の穏やかな煙が宙を舞っている。
勤め人は国民服の襟を正し、勤労奉仕へと向かう。
女学生たちは、へちま襟のセーラー服に袖を通す。
いつもと変わらぬ喧噪。
80年前の今日、午前8時15分までは。
10年前の8月6日、広島に居た。
8年前も。以来、何十回も
此の地を訪れながらもこの日と
多くのご遺体が埋められた
本川の川沿いに
桜が咲き乱れる季節は
意識的に避けて来た。
式典が始まる何時間も前、
まだ夜が明け遣らぬうちに
慰霊碑に相対し、
震える手を合わせる
年老いた背なが
今も脳裏に焼きついている。
暁第6140部隊の見習士官として
罹災者救助と遺体処理にあたられた
故・武内五郎さんが語って下さった
「あの見事な桜はね、
無念の想いを抱いて亡くなられた方々の、
魂が咲かせとるんですよ」
という言葉が、今も胸を締め付ける。
遠方から黙祷し、祈りを捧げる。
今年も、来年も、この命が続く限り。
盛夏の広島に拡がる青空ほど、
哀しいものはない。
80年経とうが、800年を経ようが、
人類の宿痾が寛解するまで、
良心が邪悪を凌駕するまで。
合掌。





































